エンパシーマップ(共感マップ)は、ある人の視点を体系的に整理したもので、多くの場合「言ったこと」「考えたこと」「行動したこと」「感じたこと」を中心にまとめられます。チームでリサーチ結果を持ち寄り、理解できたことや意見の食い違い、まだ解明されていない問いを浮き彫りにするために使われます。
この名前から、何でもわかる魔法のツールのように聞こえるかもしれませんが、キャンバスを埋めたからといって他人の本心が覗けるわけではありません。重要なのは、集まったファクトを突き合わせ、リサーチで確認できた範囲の限界も含めて、自分たちの「解釈」を見える化することにあります。
誰の体験をマッピングするのかを決める
参加者1人についてのマップなら、細かな文脈をそのまま残せます。グループ全体のマップは共通のニーズを伝えるのに役立ちますが、それは複数の体験をまとめる根拠がある場合に限られます。区別のない「ユーザー」という大雑把なマップにしてしまうと、本来両立しないはずの状況が、まるで1人の人物の体験であるかのように見えてしまいます。
XPLANEによるエンパシーマップの解説では、ターゲットの視点を掘り下げるための活用法が紹介されています。バージョンによっては「見ていること」や「聞いていること」などの項目が追加されているものもあります。すべての空欄を埋めることを目的にせず、リサーチの目的に合ったフォーマットを選ぶようにしましょう。
例えば、地域のスポーツクラブを題材にした架空の調査を考えてみましょう。何人もの子どもの予約をする保護者もいれば、自分の予約だけをする大人もいます。同じWebサイトを使っていても、空き状況の確認や参加の承諾、スケジュールの調整が持つ意味はまったく異なります。1つにまとめてしまうより、別々のマップにしたほうが、そうした違いを正確に捉えられます。
事実と推測をしっかり分ける
参加者が「言ったこと」を記録するエリアには、発言元のメモとともに本人の言葉をそのまま書きます。「行動したこと」のエリアには、観察された振る舞いを正確に記述します。本人がそう言ったのでない限り、「圧倒されたと感じた」と書くよりも「タイムテーブルを3回開いた」と書くほうが、客観的で納得感があります。
「考えたこと」や「感じたこと」は、参加者自身の言葉によるものもあれば、リサーチャーの推測によるものもあります。どちらなのかを明記してください。手が止まったという観察結果は、「迷っているのかもしれない」という仮説を立てる材料にはなりますが、それだけで不安や不信感、不満を抱えていると断定することはできません。
リサーチ前の思い込みや仮説からマップを作り始める場合は、その旨をラベル付けし、今後の調査計画に活用します。ワークショップが終わった後、そうした思い込みをいつの間にか「判明した事実」にすり替えてはいけません。ユーザーインタビューや行動観察で仮説を検証し、集まった材料の比較には親和図法(アフィニティマッピング)を活用するとよいでしょう。
ギャップを「矛盾」と決めつけずに掘り下げる
予約手続きは簡単だと言いながら、家族に代わりに操作してもらっているケースがあります。一見矛盾しているようですが、実は操作の難しさや家庭内の役割分担、質問に対する解釈の違いなどが隠れている可能性があります。それだけで、参加者の話に信憑性がないとか、本音を隠していると判断するのは早計です。
どちらの事実もそのまま残し、その背景にある状況を探ってみましょう。先ほどのスポーツクラブの例なら、保護者はサイトの使い方は完全に理解していても、送迎の段取りを確認するために家族に頼っていたのかもしれません。入力フォームの簡略化ばかりに目を向けていると、こうした「関係者との調整」という本質的なニーズを見落としてしまいます。
マップを意思決定に活かす
最後は、裏付けが取れたニーズと、まだ残っている疑問を整理してまとめます。保護者が予定を確認するあいだ仮予約をキープできるようにすべきか、兄弟のスケジュール重複に気づきやすいタイムテーブルが必要か、といった検討に進むことができるでしょう。マップは「なぜその問いが重要なのか」を説明するためのものであり、それ自体が答えを出してくれるわけではありません。
課題が複数のステップやチャネルにまたがっている場合は、次にカスタマージャーニーマップを作るのが効果的です。もしマップによって「いかに分かっていないことが多いか」が浮き彫りになったなら、追加のリサーチを行うのが正しい次の一手です。もっともらしい言葉で無理に枠を埋めるよりも、分からない部分を空白のまま残しておくほうが、はるかに誠実で成果につながります。
