あるチームが申請フォームの改善を目指し、まずは項目のラベルを短くしたりステップ数を減らしたりする議論から始めたとします。しかしリサーチを行ってみると、申請者はもっと手前の段階でつまずいていることがわかるかもしれません。たとえば、どの書類が必要なのかわかっておらず、最後まで入力できない状態でフォームを開いてしまうといったケースです。画面のデザインを見直すことも依然として有効ですが、調査を経たことで「本当に解決すべき課題」がシフトしたのです。
ユーザーリサーチとは、プロダクトやサービスが想定している対象ユーザーの目的、行動習慣、体験、そして置かれている状況などを体系的に理解するための取り組みです。さまざまな手法を活用しながら、何を作るべきか、どのように機能すべきか、そして長期にわたってユーザーにしっかりと価値を届けられているかを判断するための材料を提供します。
「意思決定」と「不確実性」から始める
先ほどの申請フォームの例で言えば、「フォームを使いやすくする」というのは方向性に過ぎず、リサーチの問い(問いを立てるべき論点)にはなっていません。チームが知るべきなのは、申請者がどのように事前準備をしているか、どのステップでつまずいているのか、あるいは改善案によって完了率が上がるかどうかかもしれません。立てる問いが異なれば、集めるべきエビデンス(根拠)も変わってきます。
探索的リサーチは、未知の課題領域を掘り下げるのに適しています。ユーザビリティテストでは、実際のデザインを使ってタスクをこなそうとするユーザーの様子を観察します。また、適切なサンプリングと測定条件が揃っていれば、アンケート調査や行動データから全体の傾向を把握することも可能です。手法ありきではなく、解消したい不確実性に合わせて手法を選ぶ必要があります。
GOV.UKのユーザーリサーチ計画ガイドでは、リサーチを実際のサービスや開発プロセスとどう結びつけるかが解説されています。実践的なリサーチ計画には、リサーチの問い、対象者、手法、そして得られた知見が直近の意思決定にどう活かされるのかが明確に示されています。
本当に重要な「人」と「状況」に目を向ける
「顧客」といっても、購入者、管理者、頻繁に使うヘビーユーザー、サポートを必要とする人などさまざまです。リサーチの問いが誰の体験に関するものなのかを定め、それに沿ってリクルーティングを行いましょう。集めやすい身近なグループからでも有益なフィードバックは得られますが、そのリサーチ結果を、実際には対象に含まれていなかったユーザー層にまで勝手に広げて語るべきではありません。
アクセシビリティのニーズや、サービスが使われるコンテキスト(利用環境)も考慮に入れましょう。静かな部屋で大画面を使って入力するフォームと、紙の書類を確認しながらスマートフォンで入力するフォームとでは、求められる配慮がまったく異なります。そうした状況も含めて「体験」であり、都合よく切り捨ててよい背景情報ではありません。
リサーチへの参加はインフォームド・コンセントに基づいた自発的なものであるべきで、録画や個人情報の取り扱いについても明確な取り決めが必要です。優れたリサーチができるかどうかは、どんな問いを投げるかだけでなく、そうした信頼関係の質にもかかっています。
エビデンスを提言に落とし込む前に、まずは分析を
観察された事実、参加者の発言、そして自分たちの解釈は、明確に区別して扱いましょう。参加者の言葉は貴重ですが、実際に起きたことの完全な記録とは限りません。一方でアクセスログなどのイベントログは、記録されたアクション自体は正確ですが、その背景にある文脈までは捉えきれません。
集まったデータに適した分析アプローチを採用し、見え始めた仮説やストーリーと矛盾するようなエビデンスにもしっかり目を向けましょう。混合研究法(ミックスメソッド)は、明確な目的を持って統合するのであれば、異なる種類のエビデンスを結びつける強力なアプローチになります。ただし、単に手法の数を増やしたからといって、結論の信頼性が自動的に高まるわけではありません。
改善の提言(レコメンデーション)を行う際は、リサーチで得られた知見とのつながりを説明し、まだ検証が必要な前提条件を明記するべきです。リサーチの役割は不確実性を減らすことであり、実現可能性、優先順位、トレードオフなどを踏まえて最終的な決断を下す責任はチーム自身にあります。
リサーチの知見をその場限りにしない
役立つリサーチ報告とは、何がわかったのか、誰を対象に何を調査したのか、エビデンスの限界はどこにあるのか、そしてそれがどの意思決定を後押しするものなのかを明確に示すものです。今後のチームが調査を一からやり直さなくても結論の背景を理解できるよう、裏付けとなる資料は適切に残しておきましょう。
ユーザーもプロダクトもそれを取り巻く環境も変化し続けるため、リサーチはリリース後も続いていきます。Ballparkのリサーチツールは、インタビュー、アンケート、ユーザビリティテストなど幅広い調査をサポートできます。しかし、リサーチを継続的に行う本当の価値は、こなしたセッションの多さではなく、より良い意思決定をどれだけ後押しできたかにあるのです。
