無作為抽出(ランダムサンプリング)は、定義された母集団や抽出枠から、確率的な仕組みを用いて対象を選定する手法です。これにより、リサーチャーが扱いやすいケースや興味のあるケースを恣意的に選ぶのではなく、明確に定められた選定プロセスへと置き換えます。抽出設計とその後の分析が適切に行われていれば、このプロセスが統計的推測の確かな基盤となります。
単純無作為抽出では、指定されたサイズにおいて、あり得るすべての標本が選ばれる確率が等しくなります。他の確率抽出法では異なる手法が用いられ、抽出確率が常に均等であるとは限りません。そのため、「無作為に抽出してアンケートを実施した」という表現は、実際にどのように選定されたかが説明されていない限り、不完全な説明といえます。
リストが抽出対象を決定する
たとえば、ある架空のソフトウェア会社が、現在の顧客リストからアカウントを無作為に抽出したとします。この抽出自体は適切にランダムであったとしても、解約済みの顧客、未登録バージョンを使っているユーザー、購入を検討中の見込み顧客は除外されています。つまり、これは製品を使う可能性のあるすべての人からではなく、あくまで「そのリスト」の中から抽出されたにすぎません。
標本を抽出する前に、抽出枠をしっかり確認しましょう。重複を適切に除外し、対象資格を確定させ、カバレッジの漏れを特定します。また、抽出単位が個人なのか、アカウントなのか、世帯なのか、あるいは別の何かなのかを定めておくことも重要です。アカウントを抽出しておきながら、その中の全ユーザーをそれぞれ独立して抽出されたものとして扱うと、設計を見誤ることになります。
オーストラリア統計局(ABS)は、確率抽出を「抽出確率が既知であること」と定義して解説しています。この要件こそが、確率抽出と、単にその場にいた回答者を集めただけのサンプリングを分ける決定的な違いです。
母集団に適した設計を選ぶ
適切なリストがあれば、単純無作為抽出が有効に機能します。層化抽出は、母集団を特定のグループに分割したうえで各グループから抽出を行う手法で、適切に設計すればサブグループのカバレッジや精度を高めることができます。一方、クラスター抽出や多段抽出では、グループ単位や複数段階に分けて対象を抽出するため、そうした構造的な関係性を考慮した分析が必要です。
系統抽出は、無作為に決めたスタート地点から一定の間隔で抽出していく方法です。この手法が適しているかどうかはリストの並び順に左右される面があり、周期的なパターンがあると抽出間隔と干渉してしまう恐れがあります。これらの手法には関連性がありますが、誤差の計算方法まで同じように扱えるわけではありません。
先ほどのソフトウェアの例でいえば、規模の小さいエンタープライズ層について十分な情報を得るために、プランごとに分けて抽出するケースが考えられます。抽出率が異なる場合、顧客全体の結果を推定するには、単にすべての回答を平均するのではなく、その抽出率に応じた適切な重み付け処理が必要です。
抽出・参加・割り付けを混同しない
案内を送るリストを無作為に選んだからといって、実際に回答してくれる人たちまで無作為になるとは限りません。参加する意欲や条件が調査結果と関係している場合、無回答バイアスが生じる可能性があります。参加状況を把握し、データが許す範囲で回答者と非回答者の違いを検証することが大切です。
また、無作為抽出はA/Bテストなどにおける無作為割り付け(ランダムアサインメント)とも異なります。サンプリングは「誰を調査の対象にするか」に関わるものであり、割り付けは「対象者にどの条件を割り当てるか」に関わるものです。実験において、集めやすいサンプルを対象にランダムな割り付けを行えたとしても、それによって市場全体を代表できるわけではありません。
探索的なインタビューなどでは、特定の経験や多様な視点が求められるため、有意抽出(目的的サンプリング)のほうが適している場合もあります。無作為抽出は、統計的な推測を行うための具体的な役割を持った手法であり、あらゆるリサーチで掲げるべき万能の基準というわけではありません。
