会社全体としては「成長したい」という方向性で一致していても、チームごとに目指す成長の形が食い違っていることがあります。マーケティングはサインアップ数を増やし、プロダクトチームはセッション数を伸ばそうとし、セールスはより大型の契約を狙う。しかし、顧客が本来求めていた価値を本当に実感できているのかは、誰も明確に説明できません。ノーススターメトリック(North Star Metric)は、そうした各チームの取り組みに共通の指標を持たせるためのアプローチです。
この指標は通常、顧客にとっての価値を反映し、持続可能なビジネス成果へと結びつけるための主要なプロダクト指標を指します。さらに、より具体的なインプット指標やトレードオフをチェックする仕組みによって補完されます。「北極星」という名がついているからといって、プロダクトの健全性をすべて網羅できるわけではありませんし、あらゆるビジネスに当てはまる万能の数値も存在しません。
数値を決める前に、まず「価値」を定義する
たとえば、ある架空のレポーティング製品を考えてみましょう。チームはまず「週あたりの作成レポート数」に目を向けるかもしれません。これは測定しやすい指標ですが、重複作成されたものや放置されたレポートによっても数値が上がってしまいます。「他のチームメンバーに閲覧されたレポート数」であれば、本来提供したい価値に近づくかもしれませんが、1人で完結して作業しているユーザーが得ているメリットは見落とされてしまいます。
こうした課題を一つひとつクリアしていくこと自体が、指標選びの重要なプロセスです。まずは顧客が得る成果を日常の言葉で定義し、それを反映していると考えられる行動を特定したうえで、ユーザーリサーチやプロダクトデータを活用してその関連性を検証していきます。AmplitudeのNorth Starリソースでは、全体を統括する指標と、各チームが直接働きかけられるインプット指標を結びつけるフレームワークが紹介されています。
広告費を増やしたときにだけ伸びるような数値は、ユーザー獲得の指標としては役立っても、顧客価値を説得力を持って示すものとは言えません。一方で、複雑すぎるスコアは解釈が難しく、意図しない要因で変動してしまいがちです。誰もが説明でき、検証可能で、再現性のあるシンプルな定義を選びましょう。
チームの意思決定を共通の指標と結びつける
主要な指標が決まったら、そこに寄与する要因を特定します。先ほどのレポート製品の例で言えば、「最初に価値のあるレポートを作成できたアカウント数」「レポートが継続的に活用されている頻度」「アクセスできるチームメンバーの数」などが考えられます。それぞれの要因に応じて、取り組むべきリサーチの問いやプロダクト開発のタスクが自然と見えてきます。
アクティベーション指標は初期のマイルストーンを示すものかもしれませんが、その他のKPIは継続利用や信頼性、あるいはビジネス面での成果をモニタリングします。それぞれの指標の関連性は、常に明確にしておく必要があります。メイン指標の下に単に数字を並べただけでは、ある数値を改善することが別の数値の向上につながる根拠にはなりません。
共通の指標には、マイナスの影響や品質低下を検知するチェック指標もセットで用意しましょう。どれだけレポートの閲覧数が増えていても、ユーザーが正しい情報を見つけるために似たようなレポートをいくつも開かざるを得ない状況なら、それは成功とは言えません。実際のワークフローをリサーチすることで、そうした数字と実態のズレに気づくことができます。
定義の見直しをオープンに受け入れる
複数のターゲット層を持つプロダクトの場合、全体の数値が向上している陰で特定の層が苦戦している状況を見落とさないよう、層ごとに分けたサポート指標が必要になることがあります。場合によっては、1つの包括的な指標にまとめるのがビジネスの実態に合わないこともあります。無理に1つに統合するよりも、関連性が明確な複数の成果指標を持った方が効果的です。
プロダクトの目的やユーザー層が変わったときは、指標を見直しましょう。過去のデータを密かに書き換えるのではなく、従来の定義を残したうえで、どこで連続性が途切れたのかを説明することが大切です。ノーススターメトリックの真の価値は、全員が一貫した意思決定を下せるように導くことにあります。もはや価値を反映していないアクションに対して高い評価を与えてしまうなら、それを変えずに維持することは「一貫性」ではなく、単なる「計測の不具合」です。
