日程管理システムを購入する人は、レポート機能やコスト、管理のしやすさで評価するかもしれません。一方、慌ただしいシフト中に実際に使う人にとっては、通話中の顧客を待たせることなく予約変更できるかどうかが最も重要だったりします。どちらの視点も欠かせませんが、片方だけで全体を代弁することはできません。
エンドユーザーリサーチとは、自身の業務をこなすためにプロダクトやサービスを直接使う人々を対象にした調査です。購入者、管理者、そして現場で日々使う人がそれぞれ異なる場合に特に役立つアプローチですが、1人が複数の役割を兼ねているケースもあります。
役職ではなく「実際の業務」に目を向ける
リサーチの参加者を募る際、肩書きだけを手がかりにすると範囲が広すぎることがよくあります。たとえばクリニックの予約管理をテーマにする場合、マネージャーが予約を変更するのはたまにある程度かもしれませんが、受付スタッフは一日中その作業を行っています。アクセス権を持つ人全員が同じ使い方をしていると思い込まず、関連するタスク、頻度、担当範囲、利用環境などを具体的に定義することが大切です。
GOV.UKのリサーチ参加者募集に関するガイダンスでも、適切なリクルーティングを通じて、実際に使う人や使う可能性の高い人にアプローチすることの重要性が強調されています。既存の顧客窓口は足がかりになりますが、協力的で発言力のあるユーザーや上層部のスタッフばかりが紹介される傾向もあります。そうした紹介だけでは見落とされてしまう重要な体験があるなら、別の参加者獲得ルートも検討しましょう。
スクリーナー(事前アンケート)を使えば、どの回答が条件に当てはまるかを応募者に悟らせることなく、該当する業務を実際に行っているか確認できます。目指すのは「それらしい肩書き」ではなく、対象となる業務との確かな接点です。
本音を引き出せる環境を整える
マネージャーの目の前では、従業員が独自の工夫(裏ワザ)や日頃の困りごとを率直に話しづらいこともあります。リサーチの目的、記録を閲覧する範囲、そして結果がどのように報告されるかを丁寧に説明しましょう。リサーチが意図せぬ人事評価の場になってしまわないよう配慮して進める必要があります。
最近の具体的な業務について質問し、可能であればその様子を観察させてもらいましょう。シャドーイング(現場密着観察)や文脈的インクワイアリー(文脈質問法)を取り入れることで、一般的なインタビューでは漏れてしまいがちな作業の中断、参照している資料、現場での非公式な連携などが見えてきます。なお、合意した調査範囲を超える顧客情報や企業秘密は適切に保護してください。
マネージャーや購入者の声も、購買動機やガバナンス、組織上の制約を知るための貴重な情報源です。どちらか一方だけを「正しい視点」として扱うのではなく、日々の現場利用に関する観察結果とは区別して整理しましょう。
ユーザー体験をサービス全体と結びつける
契約が継続していても、本来使うはずの多くの人がそのプロダクトを避けているケースもあります。逆に、チームの誰か1人が代表して作業を行っているなら、個人の利用頻度が低くても何ら問題はありません。アカウント単位のデータとユーザー単位のデータを照らし合わせ、実際の業務がどのように分担されているかを踏まえて解釈しましょう。
改善提案を行うときは、誰にメリットがあり、どのタスクが改善され、他の役割にどんな影響があるのかを説明します。ワークフローをシンプルにして必須の承認ステップを省けば、ある人の手間は解消されても、別の誰かに新たなリスクを負わせることになるかもしれません。
エンドユーザーリサーチの価値は、プロダクトが現場でどう使われているかをより立体的に把握できる点にあります。これによって、その業務を成り立たせている組織的な背景を保ちながら、実際に現場で手を動かす人々に寄り添ったデザインができるようになります。
